くまのかたこと−思い出の宿
地域雑誌の仕事をしているので、なにか町にこだわる人、定住派と思われがちだが、実は無類の旅好きである。小さな頃はよく親が旅につれていってくれた。
高校生くらいになると、親と旅するのが恥ずかしかった。ユースホステルの会員になってあちこち旅をした。
学生時代は勉強目的の合宿が多く、そういった一泊二千円くらいの宿で、種のほとんどない五目寿司や、肉のはいっていないカレーライスを食べながら一日中、本を読んでいた。
結婚し、子どもが生まれても、めげずに子連れで出かけた。懐が淋しかったので、行き先は民宿か公共の宿に限られていた。
この十年ほどは、取材、調査、講演など仕事の旅が多く、四十すぎたらゼイタクをしなくちゃいけない、と民法に書いてあるそうで、ややいい宿に泊まっている。
旅のアマチュアではあるが、勘はいい方だ。ただし好みは偏りがある。
シンプルが好き。装飾過剰はきらい、人と話すのは好き。でも営業スマイルやかゆいところに手が届くもてなしは不要。地酒と郷土料理が好き、山の中の刺身やどこでもある懐石はきらい。古びてひなびた宿が好き。不潔なのは困る。木造りの宿は好き。でも銘木や狸の置物など下手物はちょっとね。
こんなワガママな私と波長の合った宿、合わなかった宿いろいろあるが、良くも悪くも思い出のある宿をあげてみた。正直に書いた。
同じような趣味の旅好きに役に立てば幸い。
当然ながら、身銭を切っての宿泊で、一切のパブリシティはない。
森まゆみ
2003年5月7日(水曜日)公開
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